【レビュー】戦場に舞ったビラ 伝単で読み直す太平洋戦争

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先日読んだ本を紹介する。

戦場に舞ったビラ 伝単で読み直す太平洋戦争 (講談社選書メチエ)

Kindle版で読んだ。

伝単というのは、戦時に敵国の人々に向けて撒くビラのことである。戦意を喪失させたり、印象操作をしたり、煽ったり、投降を呼びかけたりするために作られ、飛行機などでばら撒かれる。「紙の爆弾」と呼ばれることもある。

本書は、日中戦争および太平洋戦争中の伝単をテーマにした本である。
どうしても、伝単というと、ブラックユーモアの効いたイラストであったり、美味しそうな食べ物の写真や一見紙幣に見えるデザインの物であったりと、インパクト重視のものばかりが有名になってしまう。本書は、そういった「クオリティの高い」伝単を紹介するコレクション的な内容に終わらず、戦後に書かれた手記などからわかる「伝単を拾った人の反応」と、伝単からうかがい知ることができる日米両国の「敵国」のイメージを丁寧に解説しているのがポイントだ。

伝単を見ていると、「誰が書いたのか」というのが気になってくるものだ。絵が上手かったり、敵国事情に精通した者が書いたとしか思えないハイコンテクストなブラックジョークが書かれていたり。やけに流暢な敵国語であったり、あるいは逆に間違いだらけだったりする。誰がどのように動員されてたのかについても詳しい記述がある。

また、興味深いのは、米国側が日本人の精神性を徹底的に研究し、極端に降伏・投降を嫌がるのでどうするか? と色々工夫を凝らした。日本人は「投降」「降伏」をどう捉えているのか? ただ単純に「死を恐れず突撃してくる狂戦士たち」と捉えていたのではない。
文化的に、あるいは教育の結果として「投降」を拒否しているという精神面。投降後の処遇についての敵への不信。そもそも投降という選択肢がない、或いはどうやって投降したらいいのかわからないのではないかという考察もなされた。そうして、投降に対するネガティブイメージや米軍への不信を解きほぐすために工夫を凝らして伝単の文言が練られた。

本書は、戦後に書かれた手記を数多く引用し、伝単を拾い、伝単に心を動かされた当事者の身に何が起こったかを記述している。こちらは、主に日本兵側の記述が主となる。伝単はどう「効く」のか。
死線をさまよう兵士が伝単を拾う。文化的な活動とは無縁の状況で出会った母国語の印刷物を、貪るように読む。「活字に飢え、活字を貪る」という体験は、多くの手記に共通するものだ。拾った伝単に対する反応はさまざまだ。ハッタリじゃないかとバカにする人もいれば、実はこの伝単にこそ真実が書かれているのではないかと思う人もいる。もう投降してもいいのではないか?投降も悪いものではないのではないか?と心は動く。

「伝単コレクション的なものが読みたい」と思って購入したら、予想外にディープな内容だった。肝心の伝単の画像がちょっと小さめなので、小さい画面+Kindleだと都度拡大しないとよく読めないというのが難点ではある。

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