多摩川沿いの連光寺層から発掘した鳥類の化石を昭島市に寄贈した

先月、多摩川沿いの連光寺層という140万年ほど前の地層から「鳥類の化石のようなもの」を掘り当てた。
その後、色々あって、多摩川をちょっと遡ったところの昭島市に寄贈した。

前回までの流れはこちら。

この物体は何か?

この「鳥類の化石のようなもの」の正体が気になって仕方がない。破損した部分から覗く空洞構造と、鳥類の「烏口骨」特有の形状はわかる。これは鳥類である。

鳥類の……何なのだろうか?

まず、「これが実際に140万年前の化石なのか」という問題がある。

「鳥類の化石のようなもの」が出てきたのは、ちょっと柔らかくなった土だ。貝類の化石をたくさん含んだ硬い砂岩の層と連続しているが、水を含んで柔らかくなっており、だいぶ質感も違う。しっとりしたガトーショコラ、あるいは、ちょっと堅めの「昭和風」プリンのような掘り心地だ。
そんな場所なので、比較的新しい何かが混入して埋まる可能性が排除できないのだ。
ごく最近の鳥の死骸が埋まったものだったとか、最悪、誰かがポイ捨てしたフライドチキンの骨でしたとかいうオチがつく可能性もある。それはそれで話のタネにはなるかもしれない。

しかし、これが本物の化石だった場合は、なかなかのレアモノということになる。ネットで見られる情報では、この地層では、2017年に鳥類の上腕骨の化石が発掘されて以来、鳥類化石は見つかっていないらしい。多摩川流域全体で見てもけっこう珍しいものだし、そもそも「鳥類の骨」自体が非常に脆く、他の生物と比べると化石として綺麗に残ることが少ないらしい。けっこう学術的に価値があるかもしれない。さあどうする?

昭島市へ

ネットで調べていてたどりついたのが、この物体を発掘した地点のちょっと上流の昭島市である。1961年に発掘されたアキシマクジラの化石が名物だ。アキシマクジラが出てきたのは、今回私が掘った連光寺層よりちょっと古い小宮層という地層。他にも、昭島市やその周辺で、大型哺乳類の化石などが産出している。

そして、昭島市郷土資料室は多摩川中流域の化石にとても強いらしい。アキシマクジラを筆頭に、豊富な化石コレクションを持ち、古東京湾の化石に関する研究にもしばしば「昭島市郷土資料室」の名が登場する。
そして、こんなページが存在する。

昭島市郷土資料室では、専門の学芸員が、お持ちの化石や鉱物の種類を調べるお手伝いをします。
ご希望の方は、化石・鉱物調査相談サービスをぜひご利用ください。お気軽にお問い合わせいただけます。

ここなら相談できそうだ。地理的にも、既存のコレクションの内容的にも、連光寺層は守備範囲っぽい。
そんなわけで、電話してアポを取った。そして、持って行く品物を準備をした。

  • 今回の本命、鳥類の化石のようなもの
    • 畳んだティッシュをクッションにして標本箱におさめた。この標本は細かい突起部分があるため、引っかかって破損する恐れのある綿状の素材は危険だ。
    • ラベルに発掘者の名前を書いておく。私と娘で一緒に掘ったので連名にした。
    • 発掘地点も書く。どこの鳥の骨かわからない化石に学術的な価値はない。発掘時にスマートフォンで撮影しておけば写真に緯度経度情報が埋め込まれるので、それを参照する。
  • 化石を鑑定する場合、一緒に出てきた化石 (共産化石) も判断材料になるらしいので、すぐそばから掘り出した小さな巻き貝の化石 (のようなもの) も箱に入れておいた。貝殻の色がうっすらと残っていて「化石っぽくない」ものもある。
  • 一応、同じ鳥類の同一部位を比較しやすいようにと、アイガモとニワトリ (美味しくいただきました!) の烏口骨を用意する。

中央線に立川まで乗り、そこから向かいのホームの青梅線に乗り換えて4駅で昭島だ。電車のドアはボタンを押さないと開かない。

昭島駅の駅名表示。

郷土資料室があるのは、複合施設「アキシマエンシス」の1階だ。「アキシマエンシス」の名は、アキシマクジラの学名 Eschrichtius akishimaensis に由来する。

エントランスホールでは、アキシマクジラの化石のレプリカが出迎えてくれる。そばに化石現物も展示されている。

開放感のある建物の1階は、大部分が図書館となっている。さらに子育て支援施設やカフェなどがあり、同じフロアに郷土資料室がある。上総層群から産出したさまざまな化石の現物やレプリカが展示されている。

寄贈

学芸員の方に「化石ではない可能性も……」と前置きした上で見ていただくと、化石特有の鉱物置換などが見られるので化石と判断できるとのコメントを頂いた。付近から産出した貝化石も、イボウミニナなど海の貝であり、連光寺層から産出する貝化石の定番ラインナップらしい。

ひととおり見ていただいた後、この化石をどうするか、寄贈は検討しているかどうかという話になった。一緒に発掘した娘とも事前に話し合い、「寄贈の話が出たら寄贈しよう」というのは、あらかじめ決めておいたので、ここは寄贈ということで返事をした。

昭島市宛の書類を書き、サインする。品目は「鳥類化石 1点」だ。骨は2個でも、発掘時の状況からして同一個体っぽいので1点とカウントするらしい。

こうして、鳥さんは、発掘者である私と娘の手を離れて昭島の子になった。

昭島散歩

昭島を訪れるのは初めてだったので、ちょっと周囲を散歩してみた。

パチンコガンダム駅

今回訪問したアキシマエンシスは青梅線の中神駅と昭島駅の中間地点にある。さて、最寄り駅はどこか?

パチンコガンダム駅である。

……というのは、ちょっと古いネタだ。「パチンコガンダム駅」とは、2012年の一時期、iOSの「地図」アプリに出現してた幻の地名であり、GIS (地理情報システム) 界では伝説となっている。

iOSの標準の地図アプリがアップデートされた時、データの処理の不手際や数々の偶然が重なって、青梅線の中神-昭島間に「パチンコガンダム」というラベルのついた「駅」が表示されてしまったのだ。その「駅」があるとされた地点が、ここである。

当然、あるのは線路だけだ。わかる人にしかわからない名所である。

アキシマクジラがいっぱい

昭島市は、市を挙げてアキシマクジラを大事にしている。あちこちにアキシマクジラがいる。ちょっとした看板も、すみっこにクジラの絵が添えられていたりする。

こちらは「アキシマクジラの由来」の石碑。

マンホールもアキシマクジラ。

郷土資料室でマンホールカードを配布しているのでゲットしたかったのだが、化石の話で盛り上がっていたら、もらってくるのをすっかり忘れてしまった!

ローカル資料館の凄さ

今回の昭島市郷土資料室への訪問では、大型博物館には無い、ローカルな博物館・資料館の凄さを実感できた。

地元で産出した化石を、貝類、魚類、哺乳類、植物、足跡、そしてアキシマクジラと幅広く所蔵している。そして、それらを産出する上層層群と、この地域がかつて東京湾の海辺だった頃の情報が蓄積されている。各地の博物館や研究機関と連携した研究の実績も豊富だ。規模は小さいが、内容が非常に濃い。

このあいだ読んだ「自然史標本のつくり方」という本にも、化石の発掘に行く前には最寄りの博物館を当たれと書いてあったけど、なるほどそういうことか。

昭島のデジタルアーカイブも面白い。3Dデータをぐるぐる回せる。
とくに足跡化石や魚のヒレの化石などは、これが化石だと気づいた人が凄かったんだなと実感する。
多摩川で化石発掘をしようと思ったら、たくさんの化石の形状と質感を頭にたたき込んでおくと、現場での判断の助けになりそうだ。

連光寺層や小宮層を含む上総層群について知りたい人、化石を掘りに行きたい人は、とにかくここに行っておけ! とおすすめできる。標本と知識の蓄積があって、気になる化石を掘り当てたときは相談できる先があって、さらに、今回のように、寄贈し、将来の研究につなげるルートが存在する。ここに託すことができて良かった。