ポケモンGOやIngressがきっかけでOpenStreetMapに興味を持ったら

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ポケモンGOやIngressのベースとして使われる地図がOpenStreetMapになった。OpenStreetMapというのは、誰でも自由に編集できて誰でも自由に使うことができる地図。Wikipediaはみんなで作れる自由な百科事典、OpenStreetMapはみんなで作れる自由な地図というわけ。
ゲームがきっかけでOpenStreetMapに興味を持った方、前から知っているけれど再び興味を持ったという方に向けて、OpenStreetMapの編集に参加するとこんなに面白いよという話をちょっと書いてみる。ポケモンGOやIngressの面白さとOpenStreetMapの編集の楽しさはけっこう重なるところがあるので、ちょっと始めてみない? というわけだ。OpenStreetMapと書くのは面倒なのでここから先は略称の “OSM” でいくことにする。

私はOSM歴半年くらいのマッパー (地図編集者) である 。まだまだ新参の部類だと思う。半年というとまだまだ新参ではあるけれど、良い地図が作れるように日々頑張っている。マッピング行為そのものだけでなく、マッピングを支援するツールをたまに作っている。

OSMってどんな物なの?

マッピング

まず、マッピングというのはどういう行為なのかという話。道路や建物、その建物に入っている店舗やオフィスなどの施設を位置情報とともに記入し、そこに更に詳しい情報を書き足していく。マッピングの対象となる物は道路や建物にとどまらず、街角のポストや公園の遊具やベンチ、樹木、記念碑、街の掲示板、消火栓やAEDなどなど、あらゆるものをサポートしている。

誰でも参加できる

アカウントを取った人なら誰でもできる。「ちょっと近所のお店を入れてみるか」と思ったらすぐに参加できる。編集したデータはすぐに全世界に公開される。IngressのPortalのように審査を待たないといけなかったりReject食らったりすることもない。誰かが改善や修正のために手を加えることもあるし、逆に他人の編集した所に手を加えることもある。地図はみんなで作る。

誰でも編集できることで品質に問題があったりイタズラされたり揉めたりはしないの? という疑問も湧いてくるが、そこはけっこうなんとかなる。明らかな間違いや故意のデータの破壊はたいてい他のマッパーによって修正される。黙って修正することもあれば、コメントをやりとりして平和的に解決することもある。それでも悪意のある行動を繰り返す「荒らし」はアカウントを停止されたりする。

自由であり、オープンである

OSMは「自由」「オープン」という理念にもとづいている。これは実はけっこう凄いことだ。人類の歴史の中で長い間、限られた人だけが地図を作り、それを利用してきた。権力を持った人たちにとって都合がいいように地図が歪められたり、意図的に地図に描かれない町が存在したりこともあった。
現代のGoogle Mapsのような無料で品質の高い地図も、作られるプロセスは不透明である。削除や追加の申請、レビューといった形で部分的に参加することもできるが、それが受け入れられるかどうかは一企業に委ねられている。検索したときにどの店が優先的に表示されるのかというルールもGoogleにおまかせするしかない。
しかしOSMでは地図が作られてゆくプロセスも誰でも見ることができる。地図のデータに不足があれば誰でも編集することができるし、用途やポリシーに合わせて地図を様々な姿で描画することができる。データをごっそりダウンロードしてオフラインで使うこともできるので、検索履歴や位置情報などのプライバシーを守りながら使うこともできる。

……OSMというのはだいたいこんな感じ。さっそく参加してみようと思ったら、初心者向けの記事に目を通して地元の情報を入れてみよう。参加する前に「他の地図からの転載は禁止」というのだけは必ずおぼえておいてね!

それから、私がマッピングの上達のためにやってきたことをまとめた記事はこちら。何をすればいいのかわからなくなってきたときの参考になれば。

ここが凄いよOSM

OSMは地域によってムラが多く品質がまだまだという点は否めないが、OSMならではの魅力や強みがある。

「データそのもの」と「データをどう表示するか」の分離

OSMが素晴らしいのは、地図の「データそのもの」を編集し、利用できるというところだ。たとえばGoogle Mapsの場合、非常に品質の高いサービスではあり、APIを「マッシュアップ」することで面白いサービスを作ることもできるが、Google Mapsが提供するのはあくまで「編集済み」のデータであり、地図の元データそのものではない。
一方、OSMでは未加工のデータをどう「料理」するかはすべて自由で、実際にOSMのデータを使ったサービスが数多く公開されている。優れたインターフェイスを持つ地図アプリやオシャレに地図を表示してくれるサービス、バリアフリー経路検索サービス、防災や被災地支援のためのサービスなどなど。ポケモンGoやIngressなどのゲームもそのひとつだ。

マッピングのルールをみんなで決める

OSMでどんな物をどんな形でデータに落とし込むのかというルールは、時代の変化やニーズに合わせてマッパー達自身が決めていく。「地図にこういう情報が含まれていると将来便利だと思うので、こんな仕様を策定したらどうだろう」などとマッパー達が話し合う。現在も、ナビゲーションをしやすいような歩道の描き方や、地下鉄構内の経路検索ができるようなマッピング方法などが議論されていたりする。ルールの策定とその実践によりどんどん新時代の地図が出来上がっていく。

コミュニティ活動の成果物が凄い!

神社仏閣や城郭、大きな公園などは書き込みが物凄かったりする。個人のマッパーが頑張っている所もあるが、特定のエリアにマッパーが集まって現地調査+マッピングを行う「マッピングパーティ」と呼ばれるイベントの成果であることも多い。そういった所を観光する場合、OSMを利用すれば、見落としやすいスポットや読めない石碑、トイレや水飲み場、自販機やゴミ箱などの位置がばっちりわかって非常に便利。

あんなもの、こんな情報までマッピング!

OSMは、ありとあらゆる「緯度と経度を持った動かないモノ (地物)」をサポートしている。
消火栓やAED、ポストや町の掲示板、飲料やたばこの自販機などもマッピングできる。また、地物には「タグ」としてたくさんの情報を記入することができる。たとえば、トイレには「おむつ交換台の有無」「車椅子での利用の可否」などの情報が付与でき、それらを必要としている人たちには大きな価値を持つ。飲食店ならば喫煙の可否、料理の種類などがあり、細かい条件を指定して店を探すこともできる。

災害時に皆が頑張る

災害時は、OSMをベースにして被災地の状況を書き込むという活動が行われる。特に、地図があまり整備されていないような地域で災害が起こった場合、衛星写真をもとに遠隔地のマッパーが急速に地図を描き込むことが救援活動の助けになることもある。

マッピングのどのへんが面白いのか

OSMはすごいらしいけれど、実際マッピングするのは面白いの? ただ地図を作るだけなのにどこからモチベーションが湧いてくるの? という疑問が湧くと思う。そこで、マッパーとして活動すると何が面白いのか? なぜ自分がハマったのか? みんなはどこに魅力を感じているの? という話を色々書いてみる。

世界を見る目を鍛える

マッピングを始めてから、目で見た景色から得られる情報の密度、世界を見る解像度が上がったのを感じている。ただ漫然と歩くのではなく目に映る物をすべてチェックする習慣が付けば、目立たないところにある美味しいお店と出会うチャンスもできる。

マッパーごとの観点が生きてくる面白さ

マッパーごとに得意なことは様々。ショッピングやグルメ、街歩きを楽しみながらお店や建物の詳しい情報を充実させていくスタイルの人もいれば、自動車や自転車に乗りながら広い範囲をマッピングする人も居る。私自身は育児中なので、将来同じ立場の人たちの役に立つことを願ってトイレのおむつ交換台の有無やベビーカーでの移動に役立つバリアフリー情報、公園の遊具の対象年齢などなど、細かい情報を書き込んでいる。

マッピングのために歩くようになる

マッピングの基本は、自分の足で歩き、自分の目で見て調査すること。とにかく現地に行くのが基本。そうすると、「このへんは調査が進んでいないから」という理由で普段と違う道を通ったり、ランチのお店を探したりすることになる。そして気づけば地域のあらゆる道を把握している。
さらにイベントに参加するような熱心なマッパーや旅好きなマッパーだと、マッピングのために遠征、ついでに観光とグルメ……という豪華な楽しみ方もある。

ゲームっぽくて楽しい!

マッピングにはゲーム的な面白さがある。世界樹の迷宮シリーズでマッピングにこだわった人は必ずハマる。最近だとゼルダBotWで地図をいじるのが好きな人もOSMを楽しめると思う。

地元の詳細な地図があるという喜び

地元や好きな地域地図をどんどん描き込んでいき、スカスカだった地図がどんどん充実していくと「この地域の地図はワシが育てた」という満足が得られる。OSMのデータを利用してこの街を旅する人の役に立てたらいいなという気持ちもある。
充実した地図があれば自分自身もとっても便利……であるはずなのだが、同じ地域でマッピングを行っているうちに地図が頭の中に完全にインプットされてしまい地図がいらなくなってしまうという矛盾が発生する。

ここはハッカーの楽園

プログラミングが好きな人、新しいサービスを追っかけるのが好きな人にから見るた魅力もある。OSMは多くのハッカー達の活躍の場となっているのだ。地図を作るというひとつの壮大な目的のために、日々のマッピング活動だけでなく、ハッカーたちが自分の技術と時間を活かして様々な形で協力している。ドローンを飛ばしてマッピングを行ったり、AIによる画像解析でマッピングを補助したりと、今ホットな技術もどんどん投入されている。
また、自由に使える巨大なデータの塊があるというのも魅力的だ。地図をより良い形でビジュアライズしたり、優れたアルゴリズムでルート検索をしたりと、個人でも腕次第で良い連携サービスが作れる。

ポケモンGO x OSMに思うこと

さて、今回はポケモンGOやIngressで興味を持った人向けに書いたのだが、実際これらのゲームがOSMを利用することになったことについて考えたことを書いて終わりにする。

エージェントやトレーナーはマッパーに向いているはず

まず、これらのゲームがきっかけでマッパー増えたら嬉しいと思っている。実際、こういったゲームの面白さとマッピングの面白さは重なるところが多い。散歩やサイクリング、ドライブや旅行など、何らかの形で移動するのが好きで、その移動を更に楽しくする何かを求めているなら、OSMでも同じような楽しさが得られるはず。
IngressでPortalの申請をした人は、ただゲーム内で有利になれるだけでなく、Ingressを通じて地元の名所に光が当たり、他のプレイヤーに関心を持ってもらうことに喜びを感じたのではないだろうか。OSMならば、もっと多くのものを世界に発信できる。彫像や石碑以外でなくとも、あらゆる「発見」が価値を持つのだ。

OSMの新しい価値が引き出された

ポケモンGOでのポケモン出現ポイントの決定にはOSMのデータが使われている。たとえば水辺や原っぱなど、その場所の属性にちなんだポケモンが配置され、それによって架空の生物たちの生態を生き生きと描写している。地図はもともと人間の営みのために作られるものであり、今までのOSM連携サービスは「実用的」な物が多かった。しかし、現実世界の上に重なったた空想の世界にも命を吹き込むことにも役立つのだ。こうして新しい価値が引き出されるのは非常に喜ばしいことだ。
ただし、すべて良いことばかりというわけではない。OSMのデータとポケモンの出現パターンが連動していることから、ポケモンGOを有利に進めるためにOSMのデータに虚偽の情報を入れるという問題も発生している。これはOSMコミュニティでもけっこう問題になっている。「怪しい」編集を他のマッパーがレビューできるような仕組みもあり、発覚すれば修正し、当該ユーザに注意をするといった対応が行われている。

既存のマッパーのモチベーションアップにも期待

OSMは、「OSMデータ ✕ 連携サービス」の掛け算で価値を発揮する。
OSMの利用場面とそのユーザはどんどん増えている。Facebookの位置情報共有にも利用され、多くの人がOSMの世話になっている。そして、大人気のゲームとの連携は、「OSMのデータを利用する人」の急増を意味する。
表示されるのは「道」だけとはいえ、編集した地図が多くの人たちに使われているというのはマッパー達にとって大きなモチベーションにつながっていると思う。大勢に使ってもらえればやっぱり嬉しい。ゲームをきっかけにしたマッパーの増加だけでなく、既存マッパーのモチベーションの向上もマッピング活動を加速させる要因となるだろうと思っている。

そんなわけで、ポケモントレーナーやエージェントは今日からマッパーも兼業しよう!

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