State of the Map Japan 2018が物凄く楽しかった

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OpenStreetMapのお祭り “State of the Map Japan 2018” に参加してきた。State of the Map (SotM) というのは、OSMの大型カンファレンスで、世界各地で開かれている。今回は東京・日比谷での開催。私はSotMに参加するのは初めてだった。

コミュニティ運営、地理情報を利用した技術的サービス、マッパーの立場からの話など、テーマは幅広い。午前は大部屋で基調講演とスポンサーセッション、午後はマルチトラック、さらに同時進行でアンカンファレンスもあるという構成で、どのセッションに参加しようか悩ましかった。

レポートはTwitterの #sotmjp18 ハッシュタグなどにまとまっていて、ほとんどの発表資料も公開されている。更に各セッションのビデオは後日公開とのことなので、ここでは、私個人の感想や印象に残った話を書く。

Contents

いきなり「図書館」

会場は図書館、基調講演は「図書館」の話題。OSMのカンファレンスでいきなり「図書館」の話題である。

SotM Japan 2018は、岡本真さん (アカデミック・リソース・ガイド株式会社(ARG)) の講演からスタートした。
岡本さんは日本全国の図書館の企画に関わっておられる方。図書館自体の企画のみならず、図書館を舞台としたイベント、最近ではウィキペディアタウンに取り組んできた経験をもとに、OSMと図書館の関わりを考えるというお話だった。
図書館の「図」というのはもともと「地図」のことである。今も昔も「地図」は図書館の収集対象に含まれており、それは紙の地図や歴史的な地図ではなく、OSMのような「現代の」「デジタルな」地図を保存することにも価値があるはず。また、図書館がただ既存の資料を集めてアクセス可能にするだけの時代は終わり、図書館を起点に新たな資料を生み出していくという動きも活発になってきている。
具体的には、今までウィキペディアタウンをやってきたように、今後は「図書館でマッピングパーティ」というのも有りじゃない? という提言があった。

テクニカルな話

OSM連携サービスや地理情報サービスを紹介するセッションも色々あり、技術にとっても非技術者にとっても楽しめる内容だった。

  • Stroly : 優れたジオリファレンス (画像内の座標と地理的な座標を紐付けること) 機能により、デフォルメの入った絵地図なども現在地と連動させることができる。紙のハザードマップなど既存の資産も活かせる。
  • 給水所マップ : 被災地付近の給水所マップを現地の人たちに届けるために、配布物や張り紙として使いやすい地図を作った
  • Retroscope : 現地図と古地図、地図と航空写真など、2つの地図を素敵なUIで見せる。誰でも作れる。

マッパーの立場から

マッパーの立場からの講演も多かった。特にに面白かったのは、お城マッピングの和田清人さんによる、日本の「城」のマッピングの話。道路や歩道と違って何かと省略されがちな擁壁や壁を適切に書き込むことによって、防御装置としての機能、たとえば「攻撃側が枡形に突入して袋叩きにされる」というシーンを様子を想像できるというわけだ。地図を作るというのはただそこにある事実をデータに落とし込むという単純作業ではない。対象を深く理解した人がマッピングすれば、地物の機能を伝える生きた地図ができる。そして、地図を読む側も、洞察力次第で地図からイマジネーションをふくらませることができる。

(この話題は和田さんのblogの「私がお城マッピングを始めたキッカケ」にも書かれている。)

他にも、車載マッピングや歩道マッピングなど、色々な視点から「マッピング」を語るセッションがあった。

以前、マッピングパーティで「マッパーの個性というのは出るのでしょうか」という質問が出たことを思い出す。マッパー本人の人物像がそのまま反映されることはないし、多くのマッパーは「誰が描いても最終的にこういう地図になる」という理想形を目指しながらマッピングすると思う。しかし、その人の人生経験によって得られた視点というのは決して他人と同じものではない。 どこをどのような順番でマッピングするか、何を描いて何を省略するかも変わってくる。それを個性という言葉で呼ぶかどうかはわからないが、異なる人々の異なるの洞察が重なり合うことで地図に命が吹き込まれると私は思う。

LTしてきた

お昼はライトニングトークの時間。当日飛び入り形式ということなので、私も「JOSMのプラグイン作ってます」というタイトルで話させていただいた。今まで「MovementAlert」「EasyPresets」「QuickLabel」という3本のJOSMプラグインを開発してきたので、それを使っていかにマッピングの品質を上げていくかという話。

話し終わった後に「愛用してますよ」「重宝してます」と多くの方に声をかけていただいたのが本当に嬉しかった。

資料はDropboxで公開しておいた

東京のマッピングパーティーのこれから

なんと、「東京! 街歩き! マッピングパーティ」シリーズの主催者の山下さんが今月で京都に帰ってしまうという発表があった。東京のマッパーは大いにざわつき、今後どうしようかという話になった。

私はマッパー歴1年だが、「とにかくOSM Wikiを読み、よそのマッピング事例を見に行ったりする」という努力を徹底し、継続的にマッピングしてきた。「初心者を名乗ると周囲にツッコまれる」くらいのレベルにはなったと思う。一度はマッピングパーティーで講師を務めたこともある。今後も初心者マッパーを助けるような立場で参加していこうと思う。

OSMたのしい

OpenStreetMap界隈はとにかく面白い。面白いネタがいっぱい、面白い人との面白い出会いがいっぱいだ。その面白さが圧縮されたのがSotMだった。ひとつの目的のためにあらゆる技術が投入されているものだから、プログラマのちょっとした梁山泊となっている。地理的にもあちこちから人が集まり、各地の面白いネタを交換できた。

OSMは誰でも参加できる。「誰でも参加できる」というのは、マッピングが「誰にでもできる簡単なお仕事」だということではない。我々が物質的な存在であり、大地に根ざして生きねばならない以上、誰にでも必ず「地理」や「地図」との接点を持っているということ、そしてその接点に向けて注がれる関心や洞察はみな異なり、みな尊敬に値するということだ。

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