子供と一緒に多摩川に化石採集に行ってきた。東京都狛江市の川岸に露頭する「飯室層」という地層だ。
120〜140万年前の貝の化石が見つかった。

飯室層とは
まず、今回掘った地層を軽く紹介しよう。
100万年前、東京都東部は海の底だった。飯室層はそんな古の東京湾に120万〜140万年前に堆積した地層だ。外洋の荒波の届かない穏やかな浅い海なので、そこに住んでいた貝やウニ、サメや海生哺乳類などの化石が埋まっている。この地層が多摩川の川岸にちょうど良く顔を出しているのだ。ガチガチに固まった岩ではないので、さくさく掘れる。
ここで発掘された化石のうち一番すごいのは何と言ってもステラーダイカイギュウの全身化石。18世紀に絶滅したジュゴンの仲間であり、これだけ状態の良いものは世界中探してもなかなか無い。このあいだ国立科学博物館で開催されていた特別展「大絶滅展」の目玉展示になっており、「狛」江で見つかったステラーダイカイ「ギュウ」ということで「コマギュウ」という愛称がつけられた。
こちらは「大絶滅展」で手に入れた限定品のぬいぐるみ。もちもちしていてかわいい。

ちなみに、このあいだ掘りに行った「連光寺層」はここより上流の立川付近に露出していて、どちらも「上総層群 (かずさそうぐん) 」というより大きなグループに属しており、かつての東京湾の姿を我々に伝えてくれる。連光寺層の話はこちらの記事をどうぞ。
アクセス
今回の発掘ポイントは首都圏から電車でアクセスしやすい場所にある。
最寄り駅は小田急線の和泉多摩川駅。線路の東側、多摩川の堤防を下流に向かって進むと、二ヶ領宿河原堰がある。

ここからさらに下流に進んだ所に、川岸に降りられそうな斜面があるので、そこを頑張って降りる。春から夏にかけては草が茂っているが、たいていは多くの人が通って獣道のようになっている。「ひっつき虫」と呼ばれるタイプの草が生い茂っているので服にひっつかないよう気をつけよう。
坂を下ると目の前に見えるのが「化石島」と呼ばれている中州だ。歩いて渡れるが、水量天候、流路によっては経路が少し水没しているので、長靴やオーバーシューズを用意しておくと良い。
川遊びをする人達が石を並べたのだろうか、ここが小さな橋のようになっていたこともあった。

草をかきわけて「化石島」の南の水辺に行くと、周囲とは少し様子の違う、粘土っぽい土から成る畝状の地形が見つかる。これが目的の飯室層の露頭である。

今回は雨の後で水位が高く、目的の地形がほとんど水に現れる形となっていた。
発掘
レジャーシートを敷いて拠点を作り、発掘を開始する。100万年の潮干狩りだ!
今回は、真っ白な貝化石の端っこが地面から顔を出しているのを容易に目視できたが、この場所はコンディションが毎回変わる。川の流れは川底の土を削る。いま見えている化石はいつか流されてしまうし、新たな化石が露出することもある。水位は日々変わるし、大雨が降れば流路も変わる。目立つ化石は先客が掘り出しているかもしれない。
ここに来るのは3度目だが、黒い木片の化石が大量に見えていたこともあったし、巣穴の化石ばかりが見つかることもあった。悪く言えば当たり外れ激しく、良く言えば毎回違った発見がある。
今回掘り出したのはこちら。

このあたりの地層は、半分固まったくらいの砂や泥でできており、掘りやすいが、母岩も化石も脆く砕けやすい。大型のカッターナイフや金属のヘラやタガネなどを使ってお目当ての化石を周囲から分離し、丁寧に取り出す必要がある。
取り出した化石は周囲の母岩ごとアルミホイルや新聞で包み、壊れないように持って帰ろう。ワレモノ注意!
クリーニング
持ち帰った化石をクリーニングする。今回、良い感じの仕上がりになった3点の化石がこちら。

そのまま放置しておくと崩壊しそうなものもあるので、何らかの保護を施したい。簡単に入手できるものならば、水で溶いたボンドを染みこませるだけでだいぶ壊れにくくなる。また、貝化石の表面などは透明のアクリル樹脂塗料を塗った。プロはパラロイドB-72というアクリル樹脂を使うらしいが、一般人にはちょっと入手が難しい。
二枚貝の化石 その1
ボリュームのある二枚貝の化石。貝殻本体は一部しか残っていなかったが、全体の形が印象化石 (生き物の遺骸などに型取りされる形でできた化石) となっていた。





化石なのについ「酒蒸しにしたら美味しそう」という感想が出てきてしまう、立派な品だ。
二枚貝の化石 その2
こちらは横長のフォルムの二枚貝。開いた状態で埋まっていた。だいぶ欠けているが、もとの形がなんとなくイメージできる。



二枚貝の化石 その3
こちらも、横に長い二枚貝だ。





「これくらい掘れば大丈夫だろう」と思って母岩を切り出したら、化石本体が思っていたよりも縦方向に長かったため、途中でブチ折ってしまう形となった。もったいないことをした。
まず乾燥させ、内部に詰まっている砂の塊の部分に薄めた木工用ボンドを染みこませて崩壊を防いでから外側の砂を丁寧に除去していった。
色と模様が残っており、優美な曲線美を感じることができる。
ラベルをつけよう
クリーニングした化石にはしっかりラベルをつけて保管した。ありふれた貝の化石でも日時や場所が記録されていれば自然史標本として意味を持つが、どんなレア化石でも何もついていなければただの綺麗な置き物になってしまう。
同定に自信が無いので、「貝」とだけ書いておく。地点は、何丁目何番地で表現できるものではないので、緯度経度を書いておいた。
パンニングでガーネットのようなものが採れる
今回の化石掘りのおまけとしてパンニングをしてみた。大きなお皿で砂金を取ったりするアレである。
以前見かけた「狛江付近でパンニングをするとガーネットのようなものが採れる」という情報がずっと気になっていたので、自分の目で確かめてみようというわけだ。
石の陰の上流側や草の根っこ付近の土をパンニング皿に入れる。こういう場所は重い鉱物が滞留しやすく、特に雨の直後は狙い目らしい。比重の軽い砂を捨てると、黒光りする磁鉄鉱などに混じって確かに赤い透明の石が大量に混ざっている。これだ!
スポイトで吸い取って小さな容器に入れて持ち帰る。顕微鏡で見たところ。


さらに選別する。

この赤い石は、上流の立川付近でパンニングしたときには一切見られなかったものだ。