「ハッカソンの作り方」を読んだよ!

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「ハッカソンの作り方」を、著者の大内孝子さんからいただいた。

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この本の執筆の際、私が立ち上げ・運営に関わってきた100均ハッカソン「ヒャッカソン」についても取材していただいた。 この間取材を受けたと思ったらもう本が出来ていてびっくり。
また、私が先日書いたエントリ「最近の『ハッカソン』について」にも言及がある。

本書は、主にハッカソン開催側に向けた内容となっている。
コアなgeek層が積み重ねてきた、hacker文化の色濃いハッカソンの歴史を踏まえつつも、本書の主眼は企業や団体が主体となって開催する「いまどきの」ハッカソンだ。その中でも、ハードウェア系・Maker系ハッカソンにはかなり重点を置いている。多くのハッカソンを取材し、主催者へのインタビューを行って生の声を拾い、それらへの鋭い分析を加えた良書だ。

これを読んだ印象として、ああ、やっと時代が必要としていた本が出たなあと感じた。ハッカソンについては様々なメディアで語られてきたが、ここまで機微に触れ、濃厚にまとめられた文書というのはなかなかない。ハッカソンブームを取り巻く「空気」が見事に言語化されているし、これから開催する人への非常に親切な指南となっている。
本書がターゲットとしているのは開催側の人たちなのだが、参加者側の人にもおすすめだ。開催側の意図を見抜くコツを知ることで、より自分が参加して楽しめそうなハッカソンを見極めることができる。逆に、「地雷」を避けるヒントにもなる。

内容はこんな感じ。

  • ハッカソンとはなにか / ハッカソンの歴史
  • 多様な主催意図を整理
  • 具体例の紹介
  • 主催者インタビュー
  • 告知〜開催〜フォローの具体的な流れ
  • 開催意図と主催者のマッチングについて
  • 参加同意書・知財の取り扱いなどについて

方向性の異なるハッカソンを多数取材し、開催コンセプトをどのように実際の運営に落としこんでいるのかを解説している。どのイベントも、「ちょっとうちの技術を触ってみてよ」「面白いコンテストやるからなんか作ってよ」というレベルにとどまらず、楽しんでもらう仕掛けをしっかり用意している。それらのノウハウから、これからハッカソンを開催する人、今までのイベントをこれからも継続的に開催したい人は多くを学べるはずだ。

また、主催者と参加者のマッチングに多くの主催者が苦悩している姿に切り込んでいるのも面白い。
招待制のハッカソンやクローズドなハッカソンでもなければ、参加者の募集はオープンで行われ、来るものを拒まない。
しかし、できれば思惑に合致する人に来てほしいわけだ。そのために、開催要項の書き方、告知に使うメディア、招待枠などをうまく調整する。参加者側も、自分にとって面白みのないハッカソンや、自分のレベルと極端に離れた層のハッカソンには参加したくない。ここは、主催サイドと参加サイドの読み合いになる。
こうした機微は、実際、多くのハッカソンを見てきた参加者や、参加者と上手い関係を築くべく多大な努力を重ねてきた主催者が「なんとなく」理解しているものだとは思う。

細かい運営ノウハウについても解説されている。たとえば、会場の選定方法、食事の提供や具体的なタイムテーブルの組み方などについても詳細なアドバイスが書かれている。知財の取り扱いについても詳しく書かれ、参加同意書の例も載っている。こういった記述は、将来の事業化や起業支援をゴールとする場合は必ずおさえておかねばならない部分だ。

ハッカソンブームは、すでに来ている。人によっては「来てしまった」と思っているかもしれない。とりあえず、ハッカソンというスタイルは急速に一般化した。ハッカソンのスタイルも多様化し、参加者の層も一気に広がった。昔はハッカソンというとなんとなくイメージが共有されていたものだったが、今は方向性をしっかり決めて開催しないと、ハッカソンは迷走してしまう。
「うちもハッカソンというスタイルを採り入れてオープンイノベイションを……」となんとなく思っている人は、本書を手にとってしっかりとイベントの方向性を決めてほしい。運営がどうもうまくいかない、集まりが悪いと困っている人も、いままで上手くイベントを回してきた人も、他のイベントから多くのヒントを得られるかと思う。
ハッカソンに10回参加し、「中の人」として手探りでハッカソンを5回開催して5回反省会を開くのと同等の知見の得られる一冊だった。

不満点を挙げるとするならば、「ハッカソンの成果物をその後につなげていく」ということが非常に難しく感じられてしまうということである。

「製品の誕生」という、ハードウェアハッカソンの最も華々しい成果がいくつか挙げられているが、その成功例というのがどう見てもレアケースだ。チームの持続、主催者の手厚いサポート、場合によっては法人化、パートナーとの出会いや資金の準備、そして量産……という「ゴール」があまりに遠く感じられてしまうのだ。ハードに比べてハードルが低い筈のWebサービスの誕生などの例も、どこか奇跡的なレアケースのように見える。

そのとてつもなく遠い「ゴール」にたどり着かなかった場合に何が得られるのか? 何が生まれるのか?
主催者にとっては技術フィードバックや広報としての成果、参加者にとっては技術を学ぶ機会であったり異業種チームでの開発体験、その両者にとっての人脈構築といったメリットが挙げられているが、「成果物そのものが生き続ける」という道は無いかのように見える。
そのため、「得られるものはいろいろあるけれど、成果物そのものはどうせ捨てちゃうんでしょ?」という虚しさがハッカソンにつきまとっているかのように見えてしまうのだ。

しかし、それは「あわよくば製品化」をゴールとしたハードウェア系ハッカソンに特有の現象でしかない。実際のところ、ソフトウェア系のハッカソンや、コミュニティから自然に発生した勉強会風味のハッカソンでは、ごく当たり前に「成果物そのもの」が生き残る。
ハッカソンで作った小規模な成果物にちょっと手を入れて後日公開したら誰かが使ってくれました……なんてことは、ごく普通に起こる。ハッカソンの翌週に主催者側から「ちょっとブラッシュアップしてうちのプラットフォームで公開してよ!」とメールがくることだってあるし、参加者が公開したソースコードやblogが他の開発者の参考となり、後続を育てるのに一役買うということもある。
ソフトウェア系で技術志向のハッカソンはいまどき地味に見えてしまうのかもしれないが、そういったハッカソンをもう何件か取材し、「小さな、しかし具体的な成果」が生み出されてゆくシーンも伝えてほしかったところである。

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